リモートワークでOJTは成立するのか

最近世の中全体がフルリモートから出社回帰になっている1。朝電車に乗るととても混んでいるし、帰りもそこそこ混んでいる。 それに合わせてなのか、リモートワークでジュニア層の育成はできないとか、できるとか結構記事を見るようになった。

自分は2年ほどジュニア層の面倒を見たので、どう思うかまとめておく。未経験でフロントエンド領域のソフトウェア開発をする業務を与えられた新卒の面倒を見る、という前提である。あまり職種は関係ないと思うが、前提は共有したほうがいいと思い書いた。

ちなみに、最初の1年は出社が非推奨寄りの時期に被っていたので、リモートで育成経験があると言えるはず。

OJT自体はリモートワークでもできる

自分の意見は次のようなものだ。

  • リモートでもOJT自体はできる。ただしジュニア層が1人で仕事できるようになるかは話が別

リモートでもOJTはできる。決まったやり方で進捗報告をさせ、進みが悪ければビデオ会議ツールを使ってペアプログラミングすれば良い。技術的な知見は大体Webページのどこかにあるので送れば良い。進捗報告はチケットでもSlackチャンネルへの投稿でもなんでもいい。更新がなければ間違いなく進捗が悪いので、こちらから働きかけて強制的にペアワークしてしまえば仕事は終えられる。

振り返りなども仕事終わり、または定期的にやれば良い。ビデオ会議ツールと同時更新できるドキュメントツールを使い、書き込みながら内省を促す。なのでOJT自体はできる。

どのタイミングで問題に気づくか

しかし、問題はある。OJT期間ではなく、OJT期間が終わった後に出てくるのだ。 まずOJT期間中に自分から状況を報告し、悪いときにすぐアラートをあげる習慣が身につかなかった場合、リモートワークでは間違いなく壊滅する。理由は簡単でOJT期間中に育成担当者が能力不足をフォローしてくれていた分がなくなるからだ。

OJTが終わっても面倒を見続ける職場もあるかもしれないが、いつまでもずっと育成担当者が1から10まで尻拭いをしてくれるわけではない。どこかで必ず「ハシゴが外れる」ときがやってくる。

そこにリモートワークが重なると、自主性がない状態で監視もなく放り出された状態になる。最悪プロダクト開発 or プロジェクト開発の進捗報告まで「何もできてませんでした」の状態になる。当人もわかっているので焦ってなんとかしようとするが、1年程度の経験でできることは少ない2。しかし自分からピンチである報告ができないので進捗報告の場で注意される or 注意はされないが誰かに仕事が再割り当てされるようになる。

また、ツールの使い方や調べ方も「送られてきた情報を元に自分でさらに調べる」人以外はあまり身につかない印象がある。全部やり方を教えてもらうのが当たり前で、自分ができないのはやったことがないのに方法がわからないせいだ、のような考えがベースにあることが多いからだと考えている。教えてもらえる、答えがあるのが当たり前の環境であれば、自分で情報を探してきて推論する・試す行動にはなりにくい。

上記が組み合わさった結果、主体的な人は手助けなしでどんどん上達するが、そうでない場合はずっとジュニア層のままという状態になる。 割合としては、主体的な人:それ以外 = 2:8くらいな印象を受ける。

主体性を他者が育成できるのか?

じゃあ主体性を身につけさせれば良いだろうと考える。ソフトウェア開発における主体性は次のようなものが挙げられる。 これをOJT期間中に身につければリモートでも成立する。都度考え方を伝えてやってみせれば良い。

  • 状況が悪い時は自分から報告する
  • まずは自分で調べる・情報を探す
  • ドキュメントや文章を読んで理解を試みる
  • 文章を読むだけではなく、動作させてみる
  • 成果物の内容は説明できる(例:なぜその実装にしたのか?)

で、実際やってみてどう思ったか?結論は無理、である。 そもそも新卒の時点で20から26年ほど生きてるのだ。考え方や思考の仕方を第三者があれこれ働きかけたところで変えられるわけがない。 できるなら宗教でも開いて教祖をやったほうが儲かりそうだ。

対面だろうがリモートだろうが、「怒られたくない / 失敗したくない。だからやり方がわからないとやりたくない / やれない」みたいなのをひっくり返すのは難しい。ジュニア層ができる仕事は既存のコードを真似すれば動くようになる仕事か、ある程度手順を分解して書かれた状態のものばかりになる。すると、誰かが作業分解する手間が発生する。結果人は増えても戦力は増えない、とジリ貧になる。

お金を貰っているのだから成果物に責任を持つ。成果物を仕上げるのに必要なものを自分で準備する、みたいな価値観はもう時代遅れのものになっていると感じる。そのメンタリティがないことを指摘すると(実際は意味が違うのだが)心理的安全性が損なわれた、とかブリリアントジャークだ!とか言われてしまうリスクがある。パワーハラスメントだと言われるリスクもある。

誰かが作業者ではダメだ、と指摘しなければずっとそのままになる。しかし一体誰がこんなハイリスクなことをやりたがるのだろうか?自分の仕事もやりながら、メンタリティの指導も行いジュニア層ができない仕事もフォローする必要がある。+100万貰ってもやりたくないなと思ってしまう。

出社させて背中をみせれば良いのかもしれないが、育成する側には負担がかかるだけでデメリットしかない。そもそも同じ空間で一緒に働いたくらいで人の行動や意識が変わるものだろうか?無理では?

まとめ

リモートだろうがオフィスだろうが、結局ジュニア層の育成がうまくいくかはジュニアメンバー本人次第である。 指摘や指導にリスクがある時代になってしまったので、自分で内省を繰り返して改善するしかない。

もう今の時代、育成担当は断った方が良い。育成担当になってしまったら当たり障りなく仕事を手順に分解して振り、主体性があるかを早めに見分ける。主体性があれば何も言わなくてもこちらに働きかけてくるので見分けられる。

もしなさそうであれば作業者として割り切って付き合う。仕事は全て作業に分解して渡し、ある程度放置できる状態にしてほどほどに状況確認する。ジュニアメンバーは仕事ができたと感じ、こちらはリスク回避と自分の仕事に集中できる。このくらいが落とし所ではないだろうか。

お金を稼ぐことだけ考えるなら副業や株など、正社員以外で稼ぐのがコスパがいいんだろうなと思う3


  1. 自分の所属している会社は週一は出社推奨になっているが、ほとんどリモートワークできる。
  2. もちろん、外れ値でなんとかできる人もいる。レアケースなので一旦除外して考える。
  3. 職場が好き・マネージャーをやりたいのであれば率先してやった方が良いと思う。